いずれもニコニコ顔で、車内をなんべんも見まわした。
列車が、柏原《かしわばら》駅についたとき、指揮をしていた鍛冶屋の大将は、なにを思ったものか、つと扉をあけて、プラットホームへ下りた。どこへ行ったんだろう?
やがて列車はガタンゴトンと動きだした。しかし鍛冶屋の大将はどうしたのか、車内に姿をあらわさなかった。同室の人たちの顔には不安の色が浮かびあがった。
急造の防毒面
「どうしたんだろうな、われ等の防護団長は……」
と、商人辻村氏が、遂に心配の声をあげた。そのとき出入口の扉が、ガラリと開く音がきこえ、そして、毛布の幕の間から姿をあらわしたのは、案じていた鍛冶屋の大将だった。見れば両手に大きな新聞紙包を抱《かか》えている。中からゴロゴロ転がり落ちたのを見れば、なんとそれは木炭だった。
「炭なんか持って来て……お前さん、この暑いのに火を起す気かネ」
辻村氏の顔を見て、鉄造は首を横にふった。
「牛乳、ビール、サイダーの空壜《あきびん》を集めてください」
妙な物を注文した。――やがて七、八本の空壜が、鉄造の前にならんだ。
炭は女づれのところへ廻され、学生のピッケルを借り
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