まか》せるぞう……、よろしく頼むゥ……」
 という声がかかって、鉄造は大満足だった。
「じゃ、まず眼張の材料だ。みなさん、使ってもいいだけの紙と布《きれ》と、弁当の残りの飯とを出してください。その顔の長い学生君は紙係、青いネクタイの方は布係、その水兵服の娘さんは弁当飯係。すぐ集めにかかってください」
 誰もいやな顔をしなかった。なにしろ、毒瓦斯だ。ぐずぐずしてはいられない。
 材料は集った。それを手頃の大きさに裂く係ができ、材料を分ける係ができ、そしていよいよ全員が手分《てわけ》をして、眼張作業が始まった。紙と布とを飯粒で幾重にも隙間に張りかさねるのだった。例の紳士も、命ぜられて飯粒を盛んにこねまわしていた。この協力のかいあって、僅か十分たらずで眼張ができあがった。なお軍曹は毛布とシーツとを集めて出入口の扉よりすこし中へ入ったところに仕切りの幕をつくった。間違って出入口が開いても、毒瓦斯はこの幕で一時食いとめられる仕掛にして、そこには学生を二人ずつ、番兵につけた。
 彼等はピッケルを、小銃のように持って警備についた。こうして全く安心のできる簡易瓦斯避難室ができあがった。
 婦人たちは、
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