て、こまかく砕くことを命じた。一人の奥さんの指から、ルビーの指環《ゆびわ》が借りられ、それを使って、硝子壜《ガラスびん》の下部に小さな傷をつけた。それから登山隊の連中から蝋燭《ろうそく》が借りられた。灯をつけると、硝子壜の傷をあぶった。ピーンと壜に割目が入った。壜をグルグル廻してゆくと、しまいに壜の底がきれいに取れた。一同は固唾《かたず》をのんで鍛冶屋の大将の手許《てもと》を見ている。
 彼はポケットから綿をつかみだした。炭と綿とは、駅の宿直室から集めてきたのだった。――綿をのばしたのを三枚、抜けた壜底から上の方へ押しこんだ。
「炭をあたためて水気を無くし、活性炭にすれば一番いいのだが今はそんな余裕もないから……」
 といいながら小さくした堅炭《かたずみ》をドンドン中へつめこんだ。そしてまた底の方をすこしすかせ、綿を三枚ほど重ねて蓋をした。そうしておいて壜底を、使いのこりの布で包み、その上を長い紐《ひも》で何回もグルグル巻いてしばった。
「さあ、これでいい。――みんな手を分けてこのとおり作るんだ」
 辻村氏が、目をクルクルさせ、その炭のつまった壜を高くさしあげて、
「団長、これは何のま
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