ばらく気が変になっていたものらしい。
(ああ、姉さんや正坊はどうしたろう。これもみな、町のひとたちが、焼夷弾が落ちたらどうすればいいかを知らなかったせい[#「せい」に傍点]だ。敵機も恐ろしいには違いないけれど、防護法を知っていたらこんなにはならなかったであろう?)
旗男は心配と口惜《くや》しさで、腸《はらわた》がちぎれるように感じた。
あたりをみまわすと、後にしてきた直江津の町は、まだ炎々と燃えさかっていた。しかし、さっきまでは活発に聞えていた高射砲のひびきは今は聞えない。僅《わず》かに高田市あたりと思われる遠空に、たった一本の照空灯がピカリピカリと揺れているばかりだった。――どうやら敵機はさったらしい。だが非常管制はそのまま続けられているらしい。
「元気を出さなきゃあ……」
と、旗男は自分自身にいいきかせた。そして、四ンばいをよして、二本の足で立ちあがった。
畦道がおしまいになって、暗いながらも、火炎の明るさでそれとわかる街道へ出てきた。
(これでやっと歩きよくなる――)
と思って、彼は悦《よろこ》びながら、街道を歩きだしたが、わずか十メートルほどゆくと、道路の上に倒れてい
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