る人間にドーンとぶつかった。
(オヤ、どうしたんだろう?)
 旗男はこわごわ傍《そば》へよってみた。道路の上に倒れている人数は、一人や二人ではなかった。誰もみな、身体をつっぱらして死んでいた。そして、いいあわせたように、両手で咽喉《のど》のあたりを掴《つか》んでいた。
「ああ、敵機はやっぱり毒瓦斯を撒《ま》きちらしていったんだ」
 旗男も、姉から防毒面を貰《もら》わなかったら、この路傍にころがっている連中と同じように、今ごろは冷たく固くなっていたことだろう。
 それにしても、なんという憎むべき敵!
 ふり落ちる涙をおさえおさえ、旗男はようやく街道に出ることができた。そこで彼は、たいへん夥《おびただ》しい避難者の列にぶつかってしまった。狭い路上には、どこから持ちだしてきたのか車にぎっしりと積んだ荷物が、あとからあとへと続いていた。その車と車との間に、避難民が両方から挟《はさ》みつけられて、キュウキュウいっていた。それも一方へ進んでいるうちはよかったけれど、そのうちに誰かが流言を放ったらしく、先頭がワーッというと、われさきに引きかえしはじめた。とたんに、どこから飛んできたのか火の子が、荷物
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