各個に対空射撃用意ッ!」
 だが、高射砲はまだ沈黙して、ウンともスンともいわない。
 そのときゴウゴウゴウと、天の一角から、底ぢからのある聞きなれない怪音がひびいてきた。――すわッ! 敵機近づく!
 その刹那《せつな》だった。
 サーッと、白竜のように、天に沖《ちゅう》した光の大柱! それが、やや北寄りの空に三、四条、サーッと交叉《こうさ》した。
 とたんに、空中に白墨でかいたようにまっ白に塗られた怪影があらわれたのだった。――兵はブルンと慄《ふる》えた。恐ろしいからではない。待ちに待った敵機をついにとらえたからだ。なんとも奇怪なS国超重爆撃機の形!
 ドドドドーン。
 ダダダダーン。グワーン、グワーン。
 照準手が合図を送ると、砲手が一《ヒ》イ二《フ》ウ三《ミ》イと数えて満身の力をこめて引金を引いたのだった。
 ズズーン。
 グワーン、バラバラバラバラ。
 天空高く、一千メートルとおぼしき高度のところに、ピカピカピカピカと、砲弾が炸裂《さくれつ》して、まるで花火のようだ。
 だが敵機は、照空灯を全身に浴びたまま、ゆうゆうと砲弾の間を飛んでいる。
「ウヌ、ちょこ才な……」
 高射砲には
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