した。
「義兄さん、お天気が定まったせいか、日本海も太平洋と同じように穏かですね」
「ウン、見懸《みかけ》だけは穏かだなァ……」
国彦中尉は、なんとなく奥歯に物の挟《はさ》まったような言いかたをして、妙に黙った。
「見懸は穏かで、本当は穏かでないんですか。どういうわけですか、義兄さん!」
「ウフフ、旗男君にはわかっとらんのかなァ。君はいま、沖を見て挙手の礼をしていたね。あれは日本海を向こうへ越えた国境附近で、御国《みくに》のために生命《いのち》を投げだして働いている、わが陸海軍将兵のために敬意を表していたのかと思ったんだが、そうじゃなかったのかね」
「ええ、敬礼は太陽にしていたんです。……がその国境で何かあったんですか。例の国境あらそいで、世界一の陸空軍国であるS国と小ぜりあいをしているって聞いてはいましたが、……いよいよ宣戦布告をして戦争でも始めたのですか」
「さあ、何ともいえないが、とにかく穏かならぬ雲行《くもゆき》だ。それにこれからは、昔の戦争のように、前以《まえもっ》て戦《いくさ》を始めますぞという宣戦布告なんかありゃしないよ。S国の極東軍と来たら数年前の調べによっても、たい
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