ことは本当だ。
「智者は惑わず、勇者は恐れず」という格言がある。意味なくあわてるのでは、大和魂《やまとだましい》を持っているとはいえない。旗男のはらはきまった。
「僕、食べますッ!」
「姉さんは頂かないわ」
「ウフン、気の毒なことじゃ。ハッハッハッ」
 二人の前に、俎《まないた》にのった西瓜が出て来た。国彦中尉は庖丁《ほうちょう》をとりあげると、グラグラ沸《わ》きたっている鉄びんの蓋《ふた》をとって中に入れ、やがてそれを出すと、ヤッと西瓜を真二つに切った。それをまた三つに切ってその一つを両手にもってガブリとかみついた。
「ああ、うまいうまい。旗男君、どうだ」
 旗男は義兄の自信に感心しながら、西瓜の片《きれ》をとりあげた。そいつはすてきにうまくて、文字どおり頬《ほ》っぺたが落ちるようだった。
「義兄さん。あのコレラ菌を持っていたのはやはりスパイでしょうか」
「ウン、立派なスパイだ。日本にまぎれこんで、秘密をさぐっては本国へ知らせるスパイもあれば、あんなふうに、日本に対してじかに危害を加えるスパイもある」
「いまのスパイはS国人ですか」
「いや違う。東洋人だったよ。日本人か、他の国の人間
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