四時間ぐらいにでてくるものが多いから、それは気のせいであろう。
 とにかく旗男が気をきかしたので、コレラ菌がまかれたことはわりあい早く直江津の町に知れわたった。ぐずぐずしていると大変なことになるところだった。
「義兄《にい》さん。あの西瓜はもう駄目ですね」
 と旗男は残念そうにいった。
「ああ、西瓜! そうだ、あの騒《さわぎ》で忘れていた。オイ西瓜を持ってこォい」
 と、奥へ声をかけた。
「まあ、あなた、コレラ騒に西瓜でございますか」
 露子はあきれたというような顔をして、国彦中尉の顔をみつめた。
「なァに、あの西瓜は大丈夫だよ。コレラ菌を入れる前に、上へあげたんだもの。それでも心配だったら、漂白粉を入れた水で、外をよく洗ってもっておいで」
「まあ、あなた、……そんなに食意地《くいいじ》をおはりになるものではありませんわ」
「ばかをいっちゃあいかん。意味なく恐れるのは卑怯者《ひきょうもの》か馬鹿者だ。十分注意をはらって、これなら大丈夫だと自信がついたら、おそれないことだ。僕は自信があるから西瓜を食べる。……旗男君、君はどうするかね」
 中尉は笑いながら旗男の顔をみた。たしかに義兄のいう
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