からドッと爆笑がまきおこって、その場の暗い気持をふきとばしてしまった。――旗男は、すっぱだかなのをすっかり忘れていた。
智者《ちしゃ》は惑わず
夜に入ると、直江津のコレラ菌さわぎは、ますますはげしくなっていった。
新潟放送局では、講演放送を途中で切り、警察署からの臨時官庁ニュースとして、「コレラ菌の入った井戸水を注意して下さい」を放送しだしたから、ラジオを聞いていたものは驚いた。
「……当分生水はお飲みにならぬようにねがいます。さしあたり、井戸の中へ漂白粉《さらしこ》を一キログラムほどお入れ下さい。……それから既《すで》に生水をお飲みになった方は、急いで医師の診察をうけられるか、それともすぐ梅酢《うめず》をちょこ[#「ちょこ」に傍点]に二、三杯ずつ飲んで下さい……」
コレラになっては大変だ。漬物屋へ徳利《とくり》をもって梅酢を買いに走ってゆく男や女。青年団は、倉庫を開いて、漂白粉をバケツに詰めては、エッサエッサと夜の町の井戸を探しにゆく。漂白粉をなげこんだ井戸には、白墨で三角印をつけてゆく。……放送を聞いたとたんに腹が痛くなったという者もでてきたが、本当の発病は二十
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