がそう。ねらいすました弾丸は、容赦もなく敵機に噛《か》みついていった。
 翼をくだかれて舞いおちるもの。
 火災を起して、大爆音とともに裂けちるもの。
 傷ついてふらふらと不時着するもの。
 数十分前に、意気高く「東京撃滅!」を叫んだあの六十三機の大空軍は、今その姿を失おうとしている。
 だが、安心するのはまだ早い。東京湾上の雲にひそんだ一機、二機、三機――が死物ぐるいに帝都の空へ迫っているではないか。


   爆撃下の帝都


 魔鳥のような敵機の姿はついに品川沖に現れた。海岸の高射砲は一せいに火蓋《ひぶた》をきった。その煙の間を縫うようにして、見る見る敵機は市街の上……。
 けたたましい高射機関銃の響が八方に起こった。
 敵機の翼の下から、蟻《あり》の卵のようなものがパッととびだした。その下は、ああ、旗男たちの住む五反田の町!
「あッ、爆弾投下だッ。うわーッ、この真上だぞう……」
 この爆弾の雨をみた旗男は、高台を駈けおりながら、大声で叫んだ。――彼は空襲の知らせを聞くと、病める両親をはじめ家族たちをすぐ防毒室の中に入れ、あとのことをお手伝いさんと竹男に頼むと、自分は少年団の一人として、町にとびだしてゆくところだった。そのとき旗男は大事な持物を忘れなかった。右肩には防毒面の入ったズックの鞄《かばん》を、また左肩には乾電池で働く携帯用のラジオ受信機を、しっかり身体につけて出た。
「うわーッ、あれあれ。爆弾だ、爆弾だ」
「あわてるなあわてるな。落ちるところを注意していろ!」
 鍛冶屋の大将は大童《おおわらわ》で防護団を指揮していた。
 町々からは恐怖の悲鳴がまいあがる。
 ガラガラガラガラ!
 ドドーン、ドドーン!
 破甲弾よりは、ややひくめながら叩きつけるような大音響とともに、パーッとたちのぼる火炎《かえん》の幕!
 うわーッという凄惨《せいさん》な人間の叫び!
 町まで出てきた旗男は実をいうと、気が違いそうであった。しかしここで気が違っては日本男子ではないと思って、一生懸命、自分の手で自分の頭をなぐりつけた。ゴツーン、という音とともに感ずるズズーンという痛み、そこでハッと気がついた。
「あッ、焼夷弾が……」
 向こうの屋根に小型の爆弾が落ちたと思うと、パッと眼もくらむような光が見えた。
「こっちだ、こっちだ」
「おお」
 鍛冶屋の大将が声を聞きつけとんできた。
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