「貴方。あなたは一度も帰ってきて下さらなかったのネ」
「僕は予備士官だ。仕方がなかったのだよ」
「だって航空兵だっていう貴方が、軍服を着ていなすったような様子がないじゃありませんか」
「この背広服はおかしいだろう。しかし今だから云うが、僕は空襲下に於いて、敵国へこの日本を売ろうという憎むべき人物を、ずっと監視していたのだ。僕から云うのも変だが、僕の努力で、流石《さすが》の先生たち、手も足も出なかったのだ。治安のため、そしてまたスパイの情報を得《う》るため、僕は奮闘したのだ。帝都の混乱、帝都の被害の一部分は僕の手でたしかに軽減された。僕の役目も防空機関中の一つに入ってるんだよ」
「まア、そうでしたの。そんなに御国のために働いていらしったの、あたし云い過ぎましたわ、御免なさい」
「なにも気にしないのがいい。損害は極《ご》く僅かだ。防空に対する国民の訓練が行き届いていれば、敵の空襲も敢《あ》えて怖れるに足らん。今度という今度、わが帝国空軍の強いことが始めてわかった。米国の太平洋爆撃隊は愚か、来襲した敵の空軍は全滅だ。あっちの主力艦はわが潜水艦に悉《ことごと》く撃沈されてしまうし、本国まで逃げ
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