哨の警戒線を突破し、秩父《ちちぶ》山脈を越えて侵入してきたものらしい。立川飛行連隊の戦闘機隊はすでに出動している筈だった。
「オイ、候補生。来襲した敵機というのはどこの飛行機だか、わかるかネ」K隊長は、綽々《しゃくしゃく》たる余裕を示して候補生をからかった。
「はッ、アラスカの米国極東飛行隊でもないですし、アクロン、メーコン号にしては時刻がすこし喰いちがっています。中国からの襲撃でないことは、近畿以西の情報がないですから……」
「で、何処からだというのか」
「勿論、西比利亜《シベリア》地方からです。ハバロフスク附近を午後八時に出発してやって来たとすると、方向も進路も、従って時刻も勘定が合います」
「ふうん。候補生だけあって、戦略の方は相当なものじゃネ」
隊長は、わが意を得たという風《ふう》に微笑した。
「隊長どの、敵機の高度を判定しました。王子、板橋、赤羽、道灌山の各聴音隊からの報告から綜合算出しまして、高度五千六百メートルです」
「そうか。立川の戦闘機も、ちょっと辛い高度だな。それでは高射砲に物をいわせてやろう。第一戦隊、射撃準備!」
対空射撃高度が十キロを越す十|糎《センチ》高
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