ったし、蜂矢は若さで追いつくつもりだった。
 怪人物は、馬道の十字路をはすかいにわたった。そのとき自動車が怪人物をじゃました、だから追うふたりがつづいて、その十字路をよこぎったときには、わずかに距離を十メートルほどにちぢめていた。もうすこしだ。
 がちゃーン。
 怪人物は小脇にかかえていた黒い箱を歩道の上におとした。
「あッ、それを拾《ひろ》わせるな」
 検事が叫んで、黒い箱の方へとびついた。蜂矢もその黒い箱にちょっと注意をうつした。それが怪人物にとっては、絶好の機会だった。二人が顔をあげて、怪人物の方をみたとき、怪人物のすがたはもうなかった。
 怪人物は、かきけすようにすがたを消してしまったのである。異様《いよう》な黒い箱だけが、ふたりの手にのこった。


   黒箱《くろばこ》の謎


「うーん、ざんねん。うまく逃げられてしまったわい」
 長戸検事は、大通りのヤナギのかげで汗をふきながら、そういった。とり逃がした怪人物をあきらめたようなことをいいながらも、まだかれの目は往来《おうらい》へいそがしく動いていた。
「きょうは逃がしても、そのうちにきっとつかまりますよ」
 蜂矢探偵が、検
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