いでか、その怪人物は席をはなれて、わきたつ見物人たちをかきわけて場外へ出ようというようすだ。そこで長戸検事は、蜂矢探偵に、
「あそこに、あやしい奴がいる。逃がすな」
 と声をかけたのであった。
 検事が席を立って走りだしたので、蜂矢はかれのあとにしたがわないわけにいかなかった。だがこのとき蜂矢十六は舞台の方へ、かなりひきつけられていたのである。その心をあとへ残し、助手の小杉少年にそれッと目くばせをして、わずかのことばを少年の耳にのこすと、蜂矢は検事のあとを追いかけた。
 小屋の出口のところで、検事は不良青年数名《ふりょうせいねんすうめい》につかまって、なぐりっこをやっていた。そこへ蜂矢はとびこんで、不良青年たちをあっさりとかたづけた。そしで検事を助けて、場外へでた。
「あ、あそこにいる」
 怪人物は公園から町の方へ逃げだすところだった。かれはちらりとうしろを見た。
 蜂矢は検事とともに全速力で追った。
 怪人物は、うしろを見ながら、ひろい道路を馬道《うまみち》の方へかけていく。かれは老人のように見えながら、いやに足が早かった。しかし検事は学生のとき短距離の選手だったから、足には自信があ
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