んなかまで進んだ。そこでぴったりととまった。
「茶釜はひとまず休憩《きゅうけい》、絶景《ぜっけい》かな、絶景かな、げに春のながめは一目千金《ひとめせんきん》……」
 と、釜はまたそろそろと綱をわたりだした。囃方《はやしかた》がおもしろくはやしたてる。
「どうです、長戸さん」
 蜂矢は、検事の耳にささやいた。
「なんだかあやしいね。あれは何か仕掛けがあって綱わたりをしているんだろうね」
「さあ、そこが問題なんですが、まあ、もうすこし見ていらっしゃい」
 釜は、綱を向うのはしまでわたりきると、こんどは引き返しだ。むぞうさに綱の上をつつーッと走る。
「さあ、これよりはお目をとめてご一覧、二十世紀茶釜は脱線《だっせん》の巻とござい」
 雨谷の口上。するとふしぎな釜は綱をふみはずした。あっ、落ちるかと思ったが、落ちもしない。綱をふみはずしたまま、あやしい釜は宙に浮いている。
「つぎなる芸当は、二十世紀茶釜は宙がえり飛行の巻……」
 するとあやしい釜は綱のまわりを、くるッくるッとラセン状にまわりだした。なぜ釜が、そんな宙がえり飛行をするのかわからない。
「このところ糸くり車。これよりいよいよ早くな
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