だが、怪物の釜は、どんとおしり[#「おしり」に傍点]をおちつけて、落ちはしない。
すごい空中曲芸
「早く綱をわたらせろ」
「足はどうした。茶釜から足がはえないぞ」
「タヌキの首もはえないや」
「さきに説明を打ち切りましたが……」
と雨谷が、ここぞと声をはりあげての口上《こうじょう》だ。
「二十世紀の茶釜は、昔の文福茶釜のようなタヌキのばけた動物とはちがい、純正《じゅんせい》なる『鉱物』でござりまする。その証拠には、お見物のみなさんがたよ、この二十世紀茶釜は足もはえませずタヌキの首もでませず、お見かけどおりの、いつわりのない釜でござりまする。それが、あたかも生《せい》あるもののごとく、綱わたりをいたしまするから、ふしぎもふしぎ、まかふしぎ。さあ大夫さん、わたりましょうぞ。はーッ」
雨谷の口上に、二十世紀茶釜は、そろそろと綱の上をわたりはじめた。
あれよ、あれよと、見物の衆の拍手大かっさいである。小杉少年も蜂矢探偵も、手をぱちぱちとたたく。ただ長戸検事だけは、こわい目を舞台へ向けて、手をたたくどころか、にこりともしない。
あやしい茶釜は、するすると綱の上を走ってま
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