世紀文福茶釜は、じつは彼が新宿《しんじゅく》の露天《ろてん》で、なんの気なしに買ってきた、めしたき釜《がま》であった。
「どうです、長戸さん、この景気は……」
と、蜂矢探偵は検事の顔を見る。
「いやあ、大したものだね。おそるべき大あたりの興行だ。これじゃ表の観音さまのおかせぎ高よりは多いだろう」
検事は目をぱちくり。
「それじゃ、われわれも場内へはいってみましょう。二郎君。入場券を買っておくれ、大人二枚に子供一枚。子供というのは、君のぶんだよ」
そういって蜂矢はポケットから、紙幣《さつ》をまいたのを出して、その中から七十円をとって、小杉少年にわたした。
少年は、すぐかけていって券を買って来た。そこで三人は、すごい人波にもまれながら、小屋の入口から中へはいった。
三千人あまりの入場者が、ひしめきあって、舞台の上の怪物の動くあとを、目で追いかけていた。
舞台は、拳闘のリングのように、見物人に四方をかこまれてまん中にあり、いちだん高くなっていた。そして舞台から二本の花道が、楽屋《がくや》の方へわたされていた。
大学生|雨谷《あまたに》は、りっぱな燕尾服《えんびふく》をつけ、頭髪
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