っているのも、根拠《こんきょ》のないことでもないと思われる。そこで検事はいった。
「……もし、そうだったら、どうしたというのかね」
「殺人事件の起こるまえに、金属Qだけは、第二研究室から逃げ出していたんです。博士は、それに気がつかないでいた。その金属Qは、お手伝いさんの谷間三根子《たにまみねこ》の部屋にもぐりこんでいた。そして彼女を殺したのです。三根子の両手両腕、肩や胸などに傷がたくさんついていますが、あれはみな、金属Qとわたりあったときにできた傷だと思うんです。どうですか」
 蜂矢は、にやにやと笑った。そのとき検事の方は、さっきとはちがってかたい表情になっていた。だが、黙《もく》していた。


   殺人者の追跡


「そののちになって、川内警部が足首の上を斬られ、田口巡査はほおを斬られましたね。あれもみな、金属Qのやった第二、第三の事件なんです。これはどうです」
 蜂矢探偵は、いよいよ検事のほうへ向きなおって、検事の答えはどうかと、目をすえる。
 検事は、目をとじた。そして無言《むごん》だ。
「そう考えると、針目博士邸《はりめはくしてい》における三つの殺人傷害事件《さつじんしょうが
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