》はどこにあるのだろうか。
お釜の持主である大学生|雨谷《あまたに》君は、なんにも知らず、なんにも考えないで、しきりにいびきの音を大きくしているだけだった。
そのうちにお釜は、はじめにおしり[#「おしり」に傍点]をすえていた場所よりも、すこし前の方へ出てきた。そしてあいかわらず、からだを左右にぐらぐらとゆすっている。
それは一時間ばかりかかったが、お釜は壁ぎわから出発して、たたみ[#「たたみ」に傍点]一枚を縦《たて》に旅行し、そして夜具のはしからはみ出している雨谷の足首のそばにまで接近した。そのとき雨谷君は寝がえりをうった。かれの太い足が動きだして、いやというほどお釜にぶつかった。
「あいたッ」
おどろいてかれは目をさまし、ふとんをはねのけて、その場にすわりなおした。そしてしきりに目をぱちぱちして、あたりを見る。
「ありゃりゃ、お釜をひっくりかえしたぞ」
お釜はひっくりかえり、おしり[#「おしり」に傍点]が上に、さかさまになっていた。
「あああ、ごはんがたたみ[#「たたみ」に傍点]の上へぶちまかれちまった」
彼はお釜をおこし、その中へ、たたみ[#「たたみ」に傍点]の上に散ら
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