かれの考えでは、いままではほかの食堂で露命《ろめい》をつないでいたのであるが、露店商売をはじめてみると、なかなか時間が惜しくて、店なんかあけていられないし、それにあの商売はとても腹がへるので、食堂で食うよりも自分でめし[#「めし」に傍点]をたいて食った方が、経済であるという結論をえたので、いよいよ文字どおり自炊生活《じすいせいかつ》をはじめることにしたのである。
 その夜八時ごろから、一時間ばかりかかって、とてもやわらかいめし[#「めし」に傍点]ができた。それを茶わんで、じかにしゃくって、こんぶ[#「こんぶ」に傍点]のつくだに[#「つくだに」に傍点]をおかずに、
「ああ、うまい、うまい」
 と六ぱいもたべて満腹した。
 満腹《まんぷく》すると、雨谷君の両方のまぶたがきゅうに重くなり、すみにたたんで積んであった夜具《やぐ》をひきたおすと、よくしきもせず、その中へもぐりこんでしまったのだ。
 珍妙《ちんみょう》なる怪異《かいい》は、そのあとにはじまったのである。
 お釜がとつぜん、ことこと左右にからだをゆすぶったのである。そして、ゆすぶっては休み、休んではゆすぶった。お釜のふた[#「
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