に逃げられてしまったという顔で、こういった。
長戸検事はしょんぼりと立ちあがった。
「みんな引揚《ひきあ》げることにしよう。もうわれわれの力にはおよばない」
これをもって、お三根殺害事件《みねさつがいじけん》をはじめ二つの怪傷害事件《かいしょうがいじけん》も、いまはまったく迷宮入《めいきゅうい》りとなってしまった。
だが、事件捜査は、ほんとに終ってしまったわけではなかった。
その筋では、どういう考えがあったものか、この事件の捜査をこれまでどおり検察当局の手でつづけるとともに、それと平行して、私立探偵の蜂矢十六《はちやじゅうろく》に捜査を依頼したのであった。
私立探偵蜂矢十六!
この若い探偵について、一般に知る人はすくない。しかし検察係官の中には、蜂矢十六を認めている人が、かなりある。かれの特長は、科学技術と取り組んでおそれないこと、かんがするどいこと、推理力にすぐれていること、それから、ひとたび獲物《えもの》の匂《にお》いをかいだら、猟犬《りょうけん》のように、どこまでも追いかけ、追いつめることなどであった。
だがかれにも欠点はあった。それはまず第一に年が若いために、古い
前へ
次へ
全174ページ中59ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング