てたずねた。
「もうおそいのです。警部さんが、この部屋にねむっていた大切なものの目をさましてしまった。えらいことが持ちあがるでしょう。早くその戸口から逃げてください」
 そういう間も博士は、まん中にすえてあったテーブルの横戸《よこど》を開き、その中から潜水夫のかぶと[#「かぶと」に傍点]のようなものを引っ張り出して、すっぽりとかぶった。それから両手に、大げさに見えるゴムの手袋をはめ、同じくテーブルの横からたいこ[#「たいこ」に傍点]に大きなラッパをとりつけたようなものをつかみ出し、たいこの皮のようなところを棒で力いっぱいたたきつづけた。しかしそれは音がしなかった。そのかわり、ラッパのような口からは、銀白色《ぎんはくしょく》の粉《こな》が噴火《ふんか》する火山灰《かざんばい》のようにふきだし、陳列棚の方からのびてくるきみのわるい黒い煙をつつみはじめた。
 黒い煙は、いったん銀白色の膜《まく》につつまれたが、まもなくそれを破って、あらしの黒雲《くろくも》のように――いや、まっくろな竜《りゅう》のように天じょうをなめながら、のたくりまわった。このとき頭痛が一段とひどくなって、もう誰も立ってい
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