い、かれが研究の方向を、細胞の分子に置いていることが、これによってうかがわれる。こういう研究の領域《りょういき》は、わが国はもちろん、世界においても今までに手がつけられたことがなく、じつに研学《けんがく》の青年針目左馬太によってはじめて、メスを入れられたところのものであった。
しかもかれは、すこぶる大胆にも「生命の誕生」という問題を取り上げているのだった。はたしてかれの論文が正しいかどうかは別の問題として、かれはつぎのようなことを結論している。
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(――細胞内における分子が相互にケンシテイションをひき起こし、そのけっか仮歪《かわい》のポテンシャルを得たとすると、これは生命誕生の可能性を持ったことになる)云々。
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これが重大なる結論なのである。生命が誕生する可能性をもつ条件が、要約せられているのである。
しかし、ケンシテイションとはどんな現象なのか、仮歪《かわい》のポテンシャルとはどんな性質のものか、それについてはこの論文を読んだ者はひじょうな難解《なんかい》におちいる。だが針目青年には、これがよくわかっていて、論文中いたるところにこれ
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