検事はこのふしぎな生きものの世界へとびこんで、あまりの奇怪さに自分の頭がへんになるのをおぼえた。それから後、かれは一言も発しないで銅像のように立ちつづけた。するとその部屋が急に遠くへ離れてしまったような気がした。音さえ、遠くへ行ってしまった。かれは自分が卒倒《そっとう》の一歩手前にあることをさとった。が、どうすることもできなかった。
博士、怪物を説《と》く
長戸検事《ながとけんじ》が気がついてみると、かれはいつのまにか長いすによこたわっていた。そばでがやがやと人ごえがする。
「これをお飲みなさい。元気が出ますから」
検事の鼻さきに、ぷーんと強い洋酒のにおいがした。こはく色の液体のはいったコップがかれの目の前につきつけられている。血色《けっしょく》のいい手がそのコップをにぎっている。誰だろうかと検事がその声の主をあおいでみるとそれは針目博士《はりめはくし》だった。そしてそのまわりに、検事の部下たちの頭がいくつもかさなりあっていた。長戸検事は、びっしょりと冷汗《ひやあせ》をかいた。
「いや、もう大丈夫です」
「やせがまんをいわずと、これをお飲みなさい」
「いや、ほんとにも
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