う大丈夫だ」
検事は、強く洋酒のコップをしりぞけて、長いすからきまりわるく立ちあがった。
「だからぼくは、あらかじめご注意をしておいたのです。こんな見なれない動物をごらんになって、気持が悪くなったのでしょう」
「いや、そうじゃない。じつは昨夜からかぜ[#「かぜ」に傍点]をひいて気持がわるかったのだ。この部屋へはいったとき、異様《いよう》なにおいがして、頭がふらふらとしたのだ。心配はいらんです」
検事は強く弁明をした。かれは強引《ごういん》にうそ[#「うそ」に傍点]をついた。このうそを、ほんとうだと自分自身に信ぜしめたいと願った。けっして、この奇妙な標本を見て気持がわるくなったのではないと思いたかった。そうでないと、これから先、この奇妙な標本と取っ組んで、事件の真相をしらべあげることはできなかろう。かれは、つらいやせがまんをはったのである。
かれの配下たちの中にも、ふたりばかり脳貧血《のうひんけつ》を起こした者があった。それはもっともだ。誰だって、こんな奇妙な標本に向かいあって五分間もそれを見つめていれば、脳貧血を起こすことはうけあいだ。
脳貧血を起こさない連中の筆頭には、川内警
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