田口巡査はほおを切られて、あのとおり、かっこうのわるいガーゼを顔にはりつけているのだ。検事はいよいよくさらないでいられなかった。
だから検事としては、このうえは、あやしい針目博士の研究室の中を徹底的に家探しをして、犯人としての、のっぴきならぬ証拠物件を手に入れたいものと熱望していた。
かぎをまわす音が検事の胸をえぐった。
気がつくと、針目博士が研究室のドアの錠《じょう》をはずし、そこを開いた。そして博士はゆっくりと部屋の中へすがたを消した。検事は全身がかっとあつくなるのをおぼえた。取りおさえるか逃がすか、それはこれからの室内捜査のけっかできまる。
「なぜ、すぐはいらんのだ。しりごみしていてどうする」
検事は、入口のところに足をとめてしまった田口巡査を、低い声で叱《しか》りつけた。しかし検事は冷汗《ひやあせ》をもよおした。ぐずぐずしている自分の方を、もっときびしく叱りつけたいことに気がついたからである。
田口巡査は、はっとおどろいて、ウサギのようにぴょんとひとはねすると、研究室の中へとびこんだ。とたんにかれは、
「あっ」
という叫び声を発した。
長戸検事の顔は、いっそう青ざ
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