青黒い。細く見ひらいたまぶたのうしろに、眼球《がんきゅう》がたえずぐるぐる動いている。
それはかれが気持わるく悩んでいることを意味する。
(手がかりらしいものは、なんにもない。犯行だけが、二つ、いや三つもある。こんなことではこの事件はいつとけるかわからない。ぼやぼやするなよ、長戸検事)
そんな声が、検事の頭の中でどなり散らしている。これまで彼が現場へのぞめば、事件解決のかぎとなる証拠物《しょうこぶつ》を、たちどころに二つや三つは見つけたものである。そして犯人はすぐさま図星《ずぼし》をさされるか、そうでないとしても、犯人のおおよその輪廓《りんかく》はきめられたものである。
しかるに、こんどの場合にかぎり、そうではなく、さっぱり犯人の見当がつかないのである。そればかりか、事件そのものの性質がよくのみこめないのだ。
が、そんなことで考えこんで、多くの時間をつぶすわけにはいかない。事件の性質がどうあろうと、お三根はむごたらしく斬殺《きりころ》されて冷たいむくろ[#「むくろ」に傍点]となって隣室によこたわっているんだし、部下の川内警部は足を斬られて、げんに足をひいてうしろからついてくる。
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