か。
 長戸検事が、次第にゆううつな顔つきになっていくのもむりはない。
「もう一度、この部屋をねん入りに捜査《そうさ》してくれたまえ。兇器《きょうき》、指紋《しもん》、証拠物件《しょうこぶっけん》、死者の特別の事情に関する物件など、よくさがしてくれたまえ」
 検事は、連れてきた川内警部《かわうちけいぶ》をはじめ、部下たちにそういって捜査を再開させた。
「田口君、この家の主人には会見したのかね」
 検事はそういって、一番はじめにこの邸《やしき》へかけつけた警官にたずねた。
「いいえ、まだです」
「それは、どうして……」
 検事は、合点《がてん》がいかないという。
「私は、ここへくる早々《そうそう》、この邸の雇人をつうじて会いたいと申しこんだのです。しかしその返事があって“今いそがしいから会えない。邸内は捜査ご自由”ということなんで、そのまま仕事を進めていました」
「なるほど。しかしそれは変っている人だなあ」
「それは検事さん。針目博士といえば、変り者として、この近所ではひびいているのです」
 長戸検事はあとのことばを、田口警官の顔の近くへ口をよせていった。
「きみは、これからその主人に会
前へ 次へ
全174ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング