とにかくこれは容易《ようい》ならぬ事件だ」
 長戸検事は顔をしかめた。
 いったいお三根は誰に、どうして殺されたのか。凶器《きょうき》はどこにあるのか。おなじ屋根の下に一生けんめい研究をつづけている針目博士に、この事件は関係が有るのかないのか。謎はいつとかれるのであろうか。


   白昼《はくちゅう》の怪《かい》


 長戸検事の面上に、ゆううつな影がひろがっていく。まったく奇怪《きかい》な事件だ。
 室内には、犯人のすがたが見つからない!
 そしてこの部屋は密室で、出入りをすることができないようにしまりがしてあった。
 凶器もまだ発見されない!
 しかもあのとおり、若い婦人が頸動脈をみごとに斬られて絶命《ぜつめい》している!
 けっして自殺事件ではない!
 理屈《りくつ》にあわない事件だ。奇怪な事件だ。
 いや、理屈にあわないとはいいきれない。いま一時、この場のようすが理屈にあわないように見えるだけで、ほんとうは、これで完全に理屈にあっているのにちがいない。ただ、その正しい理屈が、まだ発見されていないのだ。とけていないのだ。
 この一見、理屈にあわない事件の謎を、どうといたらいいの
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