なにごとかを検事に耳うちした。それを聞くと検事は夢からさめたような顔になって、うなずいた。検事は、博士に向かって、ていねいに頭をさげた。
「たいへん失礼をしました。おゆるしください。それでは、わたしどもはこれでおいとまいたします。また明日、五分間ほどわれわれに会っていただきたいと思いますが、いかがですか」
「ばかな。もう二度ときみたちの顔を見たくない。早く出ていくんだ」
「ああ、たった五分間です。それも博士のご都合のよろしい時刻をいっていただきます」
「いやだ。帰りたまえ」
「すると明日はご都合がわるいのですかな。どこかお出かけになりますか」
「よけいなことを聞くな」
「では、明後日にどうぞお願いします」
「じゃ、明日会うことにしよう。午後二時から五分間、時刻と面会時間は厳守《げんしゅ》だ」
とつぜん博士が態度をかえて、いったんことわった明日の会見を約束した。検事はほっとした。
博士もなんとなくなごやかな顔にもどった。
「では、失礼しましょうや、長戸さん」
蜂矢がうながした。博士に一礼すると、カバンを抱《かか》えるようにして、戸口から外へでた。
さて、その翌日のことだったが、き
前へ
次へ
全174ページ中168ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング