いると、お三根が寝床《ねどこ》から起きあがった。水を飲みに行くつもりか、かわや[#「かわや」に傍点]へ用があったのか、とにかく起きあがったところへ、Qがとんでいってお三根ののど[#「のど」に傍点]にさわった。Qのからだはかみそり[#「かみそり」に傍点]の刃《は》のようにするどいので、お三根ののど[#「のど」に傍点]にふれると、さっと頸動脈《けいどうみゃく》を切ってしまったのだ。思いがけなく、Qは人間の死ぬところを見て興奮した。そして、朱《あけ》にそまって死んでいくお三根のまわりを、なおもとびまわったので、お三根のからだのほうぼうを傷つけた。どうだ。わかるかね」
「よくわかります。それだけよくごぞんじだったのに、あなたはなぜはじめに、そのことをわれわれに説明してくださらなかったのですか」
「おお……」
 と、博士はうめいた。
「これは最近になって、わしがつけた結論なんだ。事件当時には、わしもあわてていて、なにも判定することができなかったんだ」
 博士の話は、なかなか鋭いところをついていた。思いがけない殺人に、みずから興奮してあわてたQは、お三根の部屋でうろうろしているうちに、すっかり疲れ
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