るんだ」
「顔の皮をむくのですか」
 蜂矢は、おどろいて、命令する人の方をふりかえった。あまりといえば、惨酷《ざんこく》きわまることである。


   落ちた仮面


「わけはないんだ。それ、その男の額《ひたい》のところに、皮がまくれあがっているところがある。それを指先でつまんで、下の方へ、力いっぱいはぎとればいいんだ」
 なんという惨酷な命令だろうと、蜂矢は、この命令を拒絶《きょぜつ》しようと考えたが、ちょっと待った、なるほどそれにしてはおかしい額ぎわの皮のまくれ工合《ぐあい》だ。
(ははあ。さては……)
 と、かれはそのとき電光のように顔の中に思い出したことであった。もうかれは躊躇《ちゅうちょ》していなかった。いわれるままに、そのまくれあがった額のところの皮を指でつまんで、下へ向けてひっぱった。
 すると、おどろいたことに、皮は大きくむけていった。皮の下に、白い皮下脂肪《ひかしぼう》や赤い筋肉があるかと思いのほか、そこには、ごていねいにも、もう一つの顔面《がんめん》があった――蜂矢探偵の手にぶらりとぶら下がったものは、なんと顔ぜんたいにはめこんであった精巧《せいこう》なるマスクであ
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