そういってから博士は、横を向いて、にたりと気味のわるい笑いを頬のあたりに浮かべた。
「じゃあ、おりますよ」
「さあ、早くおりてきたまえ」
 蜂矢は、穴へおりた。
 だがかれはどうしたわけか、その前に穴の上へ、ぽんと手帳をほうりあげた。なぜ手帳を捨てたのであろうか。
 それと同時に、木かげに少年の二つの目が光った。小杉二郎《こすぎじろう》少年の目だった。


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「早くおりてこないと、きみの相手にはなってやらないぞ。わたしにことわりもなく、こんな穴を掘って、けしからん奴だ」
 異様《いよう》な姿の針目博士は、ごきげんがはなはだよろしくない。
 もうすこし蜂矢探偵が穴の上でぐずぐずしていたら、博士はほんとうに怒って、ずんずん中へはいってしまったかもしれない。
 ちょうどきわどいところで、蜂矢は穴の中へとびこんで、博士のそばに、どすんとしりもち[#「しりもち」に傍点]をついた。
「お待たせして、すみません。なにしろ、こんなところに地下道《ちかどう》があるなんて、きみのわるいことです。つい、尻《しり》ごみしまして、先生に腹を立たせて、あいすみません」
 蜂矢は、そういっ
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