の、マンホールのふたのようなものが掘りあてられたのだ。
 かれは、この重い鉄ぶた[#「ぶた」に傍点]をあけるために、地上においてきた道具をとるために、穴からはいあがった。ついでに汗をふいて、大きく深呼吸をし、それからポケットから紙巻《かみまき》タバコを出して火をつけた。
 かれは、生まれてはじめて、すばらしい味のタバコを吸ったと思った。かれはしばらくすべてをわすれて、タバコの味に気をとられていた。
「ああ、もしもし。きみは蜂矢君でしたね」
 とつぜん、蜂矢のうしろから声をかけた者があった。それは蜂矢が油断《ゆだん》をしていたときのことだったので、かれはぎくりとして、手にしていた短かいタバコをその場へとり落とし、うしろへふりかえった。
 そこに立っていた人物がある。誰だったであろうか。


   意外な一人物


 蜂矢がふりかえって顔を見あわしたその人物は、黒い服を着、白いカラーの、しかも昔流行したことのある高いカラーで、きゅうくつそうにくび[#「くび」に傍点]をしめ、頭部には鉢巻《はちまき》のようにぐるぐる繃帯《ほうたい》を巻きつけ、その上にのせていた黒い中折帽子《なかおれぼうし》を
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