しげる。
「あれだけが逃げたんじゃないかなあ」
「そういう場合もあるでしょう。あなたの部下の誰かが、これを見かけたでしょうか」
「いや、そういう報告はない」
「ふしぎですね」
 この謎はとけないままに、その日は暮れた。怪魔《かいま》はどこへ行ったのであろうか。どこにかくれているのであろうか。
 怪魔のばらばらになった遺骸《いがい》は、どこにどう始末をするか、ちょっと問題になった。けっきょく、やっぱり大事をとって、これを怪魔の死体としてあつかうこととなり、たる[#「たる」に傍点]に入れ、死体置場《したいおきば》の中へはこびこまれ、その夜は警官隊をつけて厳重《げんじゅう》な警戒をすることになった。なんだかあまりにものものしいようであるが、なにしろ相手がえたいの知れない怪物であるだけに、ゆだんはすこしもできなかった。
 はたしてその夜ふけて、怪魔の遺骸《いがい》をおいてある死体置場に、世にもあやしいことが起こった。


   死体置場《したいおきば》の怪《かい》


 死体置場の警戒のために、その部屋に詰めていた警官は、長夜《ちょうや》にわたって、べつに異常もないものだから、いすに腰をおろし
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