たまま、うつらうつらといねむりをしていた。
 ところが、とつぜん怪しい物音がして、警官をねむりから引き起こした。
「やッ。今のは、何の音……」
 と、すばやく部屋の中を見わたすと、意外な光景が目にうつった。
「あッ」
 警官は、おそろしさのあまり、全身に水をあびせられたように感じた。
 見よ。そこに収容《しゅうよう》されてあった二つの死体が並べてあったが、それにかぶせてあった布《ぬの》がとり去られてあった。そして警官が目をそこへやったとき、男の死体が、上半身をつつーッと起こしたかと思うと、警官の方へ顔を向け、上眼《うわめ》でぐっとにらんだのである。
「わッ」
 警官はおどろきの声をたてた。そして気が遠くなりかけた。
 すると、その男の死体は、よろよろと立ちあがった。そしてあやつり人形のような動きかたをして警官の方へふらふらと近づいた。
「南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》」
 警官は、おそろしさに、たまらなくなって、合掌《がっしょう》してお念仏《ねんぶつ》をとなえ、目をとじた。
 ばさり。
「うーむ」
 ばさりというのは、死体が冷たい手で、警官の横面《よこつら》をなぐりつけた音であった。

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