か》していく。
「これでいい、もうこれで、金属Qは生存力を完全にうしなった。やあやあ、骨を折らせやがった。おお、蜂矢君。もう安心していいですぞ」
博士は、そういって、蜂矢の方へにやりと笑ってみせた。
そのときであった。この部屋の戸が外からどんどんと、われんばかりにたたかれた。
「あけろ、あけろ、検察庁の者だ」
長戸検事の声らしいものもまじっている。
大会見
「おおッ……」
博士は、その場にとびあがり、おどろきの色をしめした。そしてさッとからだを壁ぎわにひいて、乱打《らんだ》されている戸をにらみつけた。
蜂矢は、博士がいやにおどおどしているのを見て、気のどくになった。
「針目さん。心配しなくてもいいですよ。長戸検事たちがきてくれたのでしょう」
「わたしは、なにも心配なんかしていない。しかしなぜ今ごろ、長戸検事がこんなところへ来たのか、わけがわからない」
博士は口ではそういったが、蜂矢の目には、博士がやっぱり胸をどきどきさせているように思われた。
「わけはわかっているのです。さっきぼくが、ニセの針目博士にここへつれこまれるのを小杉少年が見ていて、いそいで検事に知らせたのでしょう。それで検事がぼくを助けにきてくれたのですよ。戸をあけてもいいですか」
「ふーん」
針目博士は、しばらくうなっていたが、
「それなら、戸をあけてよろしい。しかしこの部屋の中で、わたしにことわりなしに、勝手なことをしないように誓わせておくんだな。でなければ、わたしはすぐさま検事たちを追いだすから、そのつもりで」
と、きびしく申しわたした。
蜂矢は、うなずいて、戸のところへ行って向う側へ声をかけ、やはり長戸検事たちであることをたしかめたうえで、かけ金《がね》をはずして戸を開いた。
「やあ、先生。よく生きていてくれましたね」
まっ先にとびこんできたのは小杉少年であった。少年は蜂矢の胸にとびついて、喜びに目をかがやかした。
「よう、蜂矢君。どうしたんだ」
そのうしろに長戸検事の緊張した顔があった。ことばつきはやさしいが、蜂矢と室内をかわるがわるにながめて、一分のすきもなかった。
そこで蜂矢は、かいつまんで、この部屋へはいってからの、いきさつを説明した。そして、
「……そういうわけで、怪人Qは、それの製作者であるところの針目博士の手で、あのとおり焼きすてられたのです。どうか、くわしいことは博士にたずねてください。しかしですね、博士はいま、かなり興奮しているようですから、腹をたてさせないように気をつけたがいいですよ」
と、かれとしての説明を終った。
そこで針目博士と長戸検事の会見となったわけであるが、検事はよく蜂矢の忠告を守って、ひきつれてきた部下たちをしずかに入口にならばせておくだけで、捜査活動は自分ひとりでやることにした。
「ずいぶん、しばらくお目にかかりませんでしたなあ、針目博士」
「そうでした、そうでした。で、きょうは何用あって、ここへきたのですか」
博士はすぐ質問の矢をはなった。
「それは、あなたにお目にかかって、怪人Q事件について、最初からもう一度、説明をしていただくためです。われわれは正直に告白しますが、これまでの捜査はみんな失敗でありました。それに気がついたので、いままでの努力を惜しいが捨てまして、はじめから出直すことにきめたのです。おいそがしいでしょうが、もう一度われわれの相手になっていただきたい」
と、長戸検事は、むきだしにのべて、博士にたのみこんだ。
「わたしはいそがしいんで、頭のわるい検察当局の尻《しり》ぬぐいなんかしていられないのです。わたしを待っている重大な問題がたくさんある――いや、これはすべてわたしの研究に関する問題のことであって、しゃば[#「しゃば」に傍点]くさい刑事のことじゃありませんよ。だから、わたしとしては、きみの申し入れをおことわりするのが、あたりまえだ。だが、せっかく来たことでもあるし、わたしもたいへんやっかい[#「やっかい」に傍点]にしていた金属Qが、あのとおり完全に分解して、生命を失ったことゆえ、みじかい時間ならばきみの申し入れをきいてあげてもよい。できるだけかんたんに、ききたいことをのべたまえ。われわれの会話は、十五分間をこえないのを条件とする」
博士は、いやに恩にきせて、長戸検事の申し入れをきいてやるといった。
「では、さっそくお願いしましょう。議事堂の塔の上から落ちて、からだがバラバラになったマネキン人形がありましたが、あれにも怪金属Qがついていたのでしょうか」
「わかりきった話です。Qがあのマネキン人形を動かしたんでなければ、マネキン人形があんなにたくみに動くことはない」
「すると、文福茶釜《ぶんぶくちゃがま》となって踊ってみせたのも、やっぱりQのなせるわざですか」
前へ
次へ
全44ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング