をあらげて叫んだ。と、かれの頭巾《ずきん》が、ひとりでにうしろへひっぱられ、今まで頭巾《ずきん》でかくれていたマネキン人形の首が、むき出しにあらわれた。
「あッ」
これには蜂矢もおどろいて、思わず声をあげた。にこにこ笑っている木製の男の子の首だ。がそれだけではない。マネキン人形の頭の上に、やかんのふた[#「ふた」に傍点]ぐらいの大きさの金属らしい光沢の物体がのっている。それが生きもののように、はげしく息をしている。ふくれたり、ちぢんだり、横に立ったり、形をかえたり。いよいよ怪しいものだ。
「待ってくれ。きみのいうことは、きく。らんぼうするな」
蜂矢は、まっさおになっていす[#「いす」に傍点]から立ちあがりあとずさりした。今までの落ちつきをうしなって、日頃の蜂矢には見たくても見られないほどの大狼狽《だいろうばい》だ。どうしたのだろう。
「もうきみと口をきく必要はない。しずかにしていろ。きみの脳にたいし直接問いただすことがあるんだ。茶釜の破片《はへん》のかくしてある場所を問いただすんだ。もうきみには答えてもらう必要はない。用がすめば、きみを殺してやる」
「待て、金属Q! 話が残っているんだ。待ってくれ、骸骨《がいこつ》の第四号!」
「ふふふふ。そこまで、きみは知っているのか。それを知っていながらわたしのじゃまをするとは、いよいよゆるしておけない。いじわるの人間よ。あとできっとかたづけてやる」
「まあ待て、きみに一つ重大な注意をあたえる。きみを作った針目博士はちゃんと生きているぞ。博士はきみを逮捕《たいほ》するために、一生けんめい用意をととのえている。それを知っているか」
「針目は死んだ。生きているわけはない。でたらめをいうな」
「博士が死んだと思っていると、きみはとんだ目にあうよ。この前きみが浅草公園《あさくさこうえん》の小屋の中で、綱わたりをしていたときに、きみはいつもりっぱに、らくらくとあの芸当《げいとう》をやりとげていた。ところが最後の日、きみは綱わたりに失敗して墜落《ついらく》した。そして茶釜はめちゃめちゃにこわれてしまった」
「それがどうした。過《す》ぎたことが」
「きみは、あの日、なぜ綱わたりに失敗して、墜落したかそのわけを知っているのかい。それをぼくが話してやる。あれはね、針目博士が特殊の電波をもちいてきみをまひ[#「まひ」に傍点]させたんだ。きみは思いだしてみるがいい」
「ふーん。どうもおかしいと思った。針目博士が生きているなら、これはぐずぐずしてはいられない。おい、博士はどこにいる」
「知らないよ。ほんとうに知らない。ぼくたちも博士の居所《いどころ》を探しあてたいと思っているのだ」
「ううーん。うそつきどもの集まりだ。よし、おれは他人の力によって征服されるものか。さあ、仕事だ。茶釜の破片を出せ。いや、きみの返事なんかいらない。直接にきみの脳からきいてやる」
そういうと、怪しい客――金属Qは蜂矢におどりかかった。
蜂矢はひらりとからだをかわしたが、金属Qはとてもす早く、蜂矢は二度目にはねじ伏《ふ》せられた。とたんにひどい頭痛を感じた。
「うーッ、苦しい」
「はっはっはっ。金庫の中にしまってあるのか。もうきみには用はない。いや、殺してやるんだ」
このとき小杉少年がとびこんできて、ゴルフのクラブで、金属Qのうしろから力いっぱいなぐりつけた。
「ややッ。誰だ」
金属Qは、びっくりしてうしろをふり返った。そのすきに蜂矢は立ちあがって、いす[#「いす」に傍点]をつかんで怪人の足をはらった。怪人は大きな音をたててひっくりかえった。が、すぐさまはね起きると、こんどはふたりには目もくれず金庫の前にとんでいった。すると金庫は、とつぜん火を吹いた。金庫のかたい扉《とびら》のまん中に大穴があいた。怪人は、その中から、蜂矢のたいせつにしていた茶釜の破片をつかみだした。
「だめだ。これはただの鉄片《てつへん》だ。おれがさがしている大切な十四番|人工細胞《じんこうさいぼう》ではない。ちえッ、いまいましい」
がちゃんと、鉄片は床にたたきつけられた。と怪人は大きなマントをひるがえして窓からさっととび出した。
「ああッ、待て」
蜂矢は立ちあがって、窓から外へ手をのばした。しかしそれはもう間に合わなかった。
「二郎君。怪人の行方《ゆくえ》を監視していてくれ。ぼくは長戸検事《ながとけんじ》のところへ電話をかけるから……」
蜂矢はいす[#「いす」に傍点]の背をとびこえて、電話機のところへとんでいった。
怪魔《かいま》の最後《さいご》?
怪魔金属《かいまきんぞく》Qが逃げた!
怪金属Qは、長い黒マントに黒頭巾《くろずきん》を着て人間の形をよそおい、日比谷公園《ひびやこうえん》の方へ逃げた。
怪金属の実体《じったい》とい
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