歩くというのはおかしい。
だが、死体がなくなったことは、まちがいない。出口は、方々にある。そのどこかを抜けて通ったものにちがいない。
死体置場は、さらに念入りにしらべあげられた。そのけっか、二つの新しい発見があった。
その一つは、議事堂の塔から落ちた怪少年の死体――これは死体といっても、マネキン人形のからだなのであるが――その死体が、それを入れてあった箱の中にはなく、手や足や胴などがばらばらになって、箱の外にほうりだされていたことである。
そして、それを集めてみると、マネキン人形の首だけが足りなかったのである。
もう一つのこと。それは、たずねるマネキン人形の首の破片《はへん》と思われるものが、なくなった男の死体のはいっていた棺《かん》のうしろのところに、散らばって落ちていたことだ。
この二つのことが、なぜ起こったのか、すぐにはとけそうもなかった。
紛失《ふんしつ》した死体の主は、上野駅のまえで、トラックに追突《ついとつ》されてひっくりかえり、運わるく頭を石にぶつけて、脳の中に出血を起こして頓死《とんし》した四十に近い男であって、どこの何者ともわからず、ただ服の裏側に「猿田《さるた》」と刺繍《ししゅう》したネームが縫《ぬ》いつけてあるだけであった。職業もはっきりしないが、からだはがんじょうであるけれど、農業のほうではなく、手の指や頭部《とうぶ》の発達を見ても、文筆労働者《ぶんぴつろうどうしゃ》でもなく、所持品から考えても商人ではない。けっきょく、わりあい財産があって、のんきに暮らしている人ではあるまいかと察《さっ》せられた。そして東京の人ではなく、地方から上野駅でおりたばかりのところを、やられたのであろうと思われた。
そのうちに、地方から、「猿田なにがし」という人物の捜査願《そうさねがい》が出てくるであろう。そうしたらその身分もあきらかになる。それを当局は待つことにして、「猿田」の死体の方は、ひきつづきげんじゅうに捜査をすすめていたのである。
だが、死体の行方は、いつまでたっても知れなかった。
蜂矢探偵《はちやたんてい》の決心
蜂矢探偵《はちやたんてい》は、ようやくからだがあいたので、ひさしぶりに、怪金属Qの事件の方にかかれることとなった。
探偵は、カーキー色の服を着、シャベルとつるはし[#「つるはし」に傍点]とをかついで、針目博士
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