邸《はりめはくしてい》へ行った。
博士邸は、あの爆発事件で、第二研究室が跡かたなくとんでしまって以来、住む人は留守番のほかに、検察庁から警官が詰めていたが、その人々もだんだんにへり、最後はただのひとりとなったが、今はそのひとりも常に詰めかけてはいず、三日に一度ぐらい、巡回《じゅんかい》にちょっと寄ってみるくらいだった。
警戒の方も、このくらいかんたんになっていることゆえ、世間《せけん》も、この事件をもはやわすれかけていた。
はじめ事件の捜査《そうさ》の指揮《しき》をとっていた長戸検事《ながとけんじ》は、もちろん、この事件をわすれてはいなかった。ひそかに毎日毎夜、頭をひねるのがれいになっていた。しかし表面にあらわれたところは、検事はやはりこの事件をわすれているように見えた。それは、この事件の捜査を蜂矢探偵に肩がわりをしたので、検事は任務から解放されたのだと、みんなはそう思っていた。
さて、蜂矢探偵のきょうのいでたちや、肩にかついだ道具は、なにを語るであろうか。
かれは、これまで針目博士邸につぎつぎに起こった怪事件を、くりかえし考えた。そのけっか、結論にたっすることができなかった。
(まだ方程式《ほうていしき》の数がたりないんだ)
結論をだすには、まだしらべがたりないところがあることが、はっきりわかったのだ。
そのたりない方程式の一つは、博士の第二研究室あとを掘りかえしてみることである。あの土の下から、かれは何ものかを発見したいと思っているのであった。
その爆破跡は、これまでに検察庁やその他の方面の人々の手によって、いくどとなく念入りに掘りかえされたのだ。しかし、ついに重大なる手がかりと思われるものは、発見されなかったのである。それなれば、これから遅ればせに、蜂矢が掘ってみたところが、何も出てくるはずがない。ところが蜂矢探偵は、あえてもう一度掘りかえす決心を立てたのだ。
かれは、博士邸《はくしてい》のさびついた門を押して、中へはいった。
貞造《ていぞう》じいさんに、まずことわっておく必要があると思い、かれをたずねた。
「やあ。どなたかね。わしは、このところ腰がいたくて、ずっと寝こんでいますでな。ご用があれば、こっちへずっと入ってください」
貞造は、そういって、ふとんの中から声をかけた。
そこで蜂矢は中へはいって、見舞《みまい》をのべた。それからか
前へ
次へ
全87ページ中63ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング