「とうとう自分でお陀仏《だぶつ》になったか」
「あんがい、かんたんな最期《さいご》をとげたじゃないか」
「大事なところを弾丸《たま》にうちぬかれたのだろう」
怪魔のからだは、ばらばらになっていた。もちろんこれはマネキン人形の手足や胴中《どうなか》や首であるから、そのはずである。
長戸検事がかけつけ、怪魔のばらばらになったからだを念入《ねんい》りにしらべた。
「はてな。なんにもない」
「検事さん、あれがありませんか」
「おお、蜂矢君」
と検事はすこしおくれてかけつけた蜂矢をふりかえって、
「あれが見えないよ。人形の首はこのとおりあるが、きみがいったようなやかん[#「やかん」に傍点]のふたみたいなものは見えない」
「もっと徹底的《てっていてき》にしらべましょう。しかしあれは怪力《かいりき》を持っていて、危険きわまりないものですから、ぴかりと光ってあらわれたら、すぐ警官隊はそれをたたき伏せなければ、あぶないですよ」
「よろしい」
蜂矢探偵は念入りにしらべた。
だが、やっぱりこわれたマネキン人形のばらばらになった部分のほかに何もなかった。
「あるはずなんだがなあ」
蜂矢は、首をかしげる。
「あれだけが逃げたんじゃないかなあ」
「そういう場合もあるでしょう。あなたの部下の誰かが、これを見かけたでしょうか」
「いや、そういう報告はない」
「ふしぎですね」
この謎はとけないままに、その日は暮れた。怪魔《かいま》はどこへ行ったのであろうか。どこにかくれているのであろうか。
怪魔のばらばらになった遺骸《いがい》は、どこにどう始末をするか、ちょっと問題になった。けっきょく、やっぱり大事をとって、これを怪魔の死体としてあつかうこととなり、たる[#「たる」に傍点]に入れ、死体置場《したいおきば》の中へはこびこまれ、その夜は警官隊をつけて厳重《げんじゅう》な警戒をすることになった。なんだかあまりにものものしいようであるが、なにしろ相手がえたいの知れない怪物であるだけに、ゆだんはすこしもできなかった。
はたしてその夜ふけて、怪魔の遺骸《いがい》をおいてある死体置場に、世にもあやしいことが起こった。
死体置場《したいおきば》の怪《かい》
死体置場の警戒のために、その部屋に詰めていた警官は、長夜《ちょうや》にわたって、べつに異常もないものだから、いすに腰をおろし
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