うべきものは、マネキン人形の頭部のてっぺんに乗っている。それを捕《とら》えるんだ!
 このような知らせが、長戸検事のところへ蜂矢からとどいたので、検事はびっくりしたが、かねて待っていたことだから、すぐ手続きをとって、警察力のすべてをあげて怪魔《かいま》の追跡《ついせき》と逮捕《たいほ》にとりかかった。
 連絡の電波は、四方八方《しほうはっぽう》にみだれとんで、金属Qの行方をたずねまわる。
「いました。金属Qらしい長マントの怪人が議事堂の塔の上にいます」
「なに。議事堂の塔の上に怪魔がいるというのか」
 長戸検事は今は金属Q捜査隊長《そうさたいちょう》に任命せられていたので、これを聞くとただちにぜんぶの隊員へ放送した。
「手配中の犯人は議事堂の塔上《とうじょう》にのぼっている。包囲《ほうい》して、取りおさえよ」
 命令一下、警官隊は議事堂へむけて突進した。自動車とオートバイとの洪水《こうずい》だ。それに消防隊が応援にかけつける。
 選抜隊が百名、いよいよ屋上へ通じている階段をのぼって、塔のもっとも下の遊歩場《ゆうほじょう》へ姿をあらわした。
 怪魔は、塔の上で、ぐったりとなっている。やっぱり疲れはてたものと見える。風に、長マントがまくれる。黒頭巾《くろずきん》が、ひとりでこっくりこっくりとおじぎをしているが、これも風のいたずららしい。
 附近の建築物の屋上にも、警官隊がぎっしりとのぼって、もし怪魔がこっちへ逃げてきたときは取りおさえようと、手ぐすねひいている。
 そのうちに怪魔は気がついたらしく、塔《とう》の尖端《せんたん》に立ちあがって、きょろきょろと下をながめまわした。と、思ったら、怪魔はマントの下から、石のようなものを下へばらばらとまいた。それは下にせまっている警官隊のまん中で大きな音をあげて破裂《はれつ》した。警官たちは将棋《しょうぎ》だおしになった。
「うてッ」
 警官たちも今はこれまでと、下から銃器《じゅうき》でもって応じた。上と下とのはげしいうちあいはしばらくつづいた。警官たちは、どんどん新手《あらて》をくりだして、怪魔を攻《せ》めたてた。
 怪魔はついにふらふらしだした。
「あ、あぶない」
 怪魔のからだが塔の上からすっとはなれた。
「下へ飛ぶぞ。逃がすな」
 大きく弧《こ》をえがいて、長い黒マントの怪魔は議事堂の庭の上に落ちた。そして動かなくなった。
前へ 次へ
全87ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング