て、きゃんきゃんと悲命をあげながら、下にすべりおちた。
「ポチ。ポチ。ぼくだよ、しずかにおし」
 恐竜の出現《しゅつげん》よりも、愛犬ポチがぶじにもどって来たのでうれしさに夢中になっている玉太郎だった。ポチは、玉太郎の胸にだかれる。
「ちぇッ。惜しい。もうすこし何か芝居をやってくれればよかったのに、もうひっこんじまった」
 映画監督のケンは、残念そうに、崖の上を見上る。恐竜の首は、すでに引込んでしまって、倒れた椰子《やし》の木が、そのかわりをつとめているように見える。
「おい、ダビット。“恐竜崖の上に現わる”の大光景は、もちろんうまくカメラにおさめたろうね」
「失敗したよ。怒るな、ケン」
「えッ。失敗したとは、どう失敗したんだ」
 ケン監督は、顔色をかえて、ダビット技師の肩をつかんでゆすぶる。
「レンズのふたを取るのを、忘れてたんだ。あやまるよ」
「なに、撮影機のレンズのふたを取るのを忘れたというのか。それじゃ、あの息づまるような恐竜出現の大光景が、たった一こまもとれていないのかい。じょうだんじゃないぜ。生命がけで、こんな熱帯の孤島まで来て苦労しているのに……」
「今後は気をつけるよ、
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