んどは、ツルガ博士と娘とマルタンが、後におくれだした。いや、おくれだしたどころではない、ツルガ博士は沼を見ると大興奮《だいこうふん》のていで、岸のところにしゃがみこんでしまったのだ。博士は、その服装にはふにあいのりっぱなプリズム双眼鏡を取出して、沼の面を念入りに、いくどもいくどもくりかえし眺《なが》めるのだった。
「ツルガ博士。くわしく観察するのは後にして、まずみなさんといっしょに、行きつくところまで行ってみようじゃありませんか」
「しいッ、しずかに……」
 マルタン氏のことばに、博士のむくいのことばは、おしかりであった。娘のネリまでが、マルタン氏に対して、大きな丸い目をむけて、「おとうさんの、お仕事を、じゃましないでよ」と抗議するようであった。
 常識があり、礼節ただしいマルタン氏は、けっして腹を立てなかった。しかしこの博士組と、先行組との間に板ばさみになって、こまってしまった。さりながら、いかなることありとも老博士と幼い女の子だけをここに残していくわけにはならなかったので、自然マルタン氏は博士の動きださないうちは、この沼の岸をはなれることはできなかった。そしていやでも博士のようすに
前へ 次へ
全212ページ中86ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング