んな声でほえるもんだから。僕はベットの上からしかった。しかし泣きやまないから、今下へおりて、この戸をあけたわけだが……ポチの姿は見えないね。どこへいったろう」
そういっているとき、またもやポチの声が遠くで聞えた。いよいよ苦しそうなほえ方であった。それはどうやら甲板《かんぱん》の上らしい。
「あっ、甲板へ行ってほえていますよ」
「うむ。どうしたというんだろう。幽霊をおっかけているわけでもあるまいが、とにかく何か変ったことがあるに違いない。行ってみよう」
そのとき、ポチはまたもや、いやな声でほえた。
それを聞くと玉太郎はたまらなくなって、かけだした。そしてひとりで甲板へ……。
甲板は、まっくらだった。
「ポチ。……ポチ」玉太郎は、犬の名をよんだ。
いつもなら、すぐ尾をふりながら玉太郎の方へとんで来るはずのポチが、ううーッ、ううーッと闇のかなたでうなるだけで、こっちへもどってくる気配《けはい》はなかった。
「ポチ。どうしたんだい」
玉太郎は携帯電灯をつけて足もとを注意しながら、愛犬のうなっている方角をめがけて走った。それは船首の方であった。甲板がゆるやかな傾斜《けいしゃ》で、上り
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