ことだけはたしかであった。
 玉太郎は、いそいではね起きた。そしてすばやく上衣《うわぎ》とパンツをつけ、素足《すあし》でベットの靴をさぐって、はいた。
 それから枕許《まくらもと》から携帯電灯《けいたいでんとう》と水兵ナイフをとって、ナイフは、その紐《ひも》を首にかけた。そして足ばやにこの部屋をでていった。
 戸口のカーテンを分けて出ようとしたとき、またもやポチのほえるのを聞いた。どうやら二等船室の方らしい。いやなほえ方だ。強敵《きょうてき》におそわれ、身体がすくんでしまってもがいているような声だった。玉太郎は、一刻《いっこく》も早くポチを救ってやらねばならないと思い、せまい通路を走って、二等船室の方へとびこんでいった。犬の姿は、なかった。
 と、船室の戸がひらいて、そこから顔を出した者があった。
 ラツール記者だった。
「おや、玉太郎君かい。どうしたんだ」とむこうから声をかけた。
 玉太郎は、そばへかけよると自分の寝台《しんだい》の下からポチが見えなくなって、どこやらで、いやなほえ方をしていることを手みじかに語った。
「ふーン、なるほど。僕もポチの声で目がさめたんだ。この戸口の外でへ
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