へのぼっていくのだ。はじめの話とはちがう。ああ、これはたいへんだ」
「なるほど。これはゆだんがならないぞ」
このざわめき話に、水夫のフランソアとラルサンの二人は、絞首台の前に立った死刑囚のように青くなった。
いがみあい
玉太郎ひとりのときと違い、ともかく十名の探検団員が島の生活にくわわったこととて、仕事はどんどんすすんだ。
この島の小さな社会の中心人物は、やはり実業家のマルタン氏だった。氏は、でっぷりふとった体をかるくうごかして、孤島《ことう》に半永久《はんえいきゅう》の安全な生活をつづけるために、色々と計画をたて、その指揮をして人々を動かした。
マルタンに比べると、団長の伯爵セキストンなんかは隠居《いんきょ》の殿様みたいであった。
マルタンの命令により、組員はかわるがわるボートに乗り、沖合の難破船へ漕《こ》ぎつけては、船に残っている食糧や布片《ぬのきれ》や器具などをボートにうつして持って帰った。
彼らは、不幸な乗組員には、ついに会うことがなかった。みんな波間に沈んでしまったらしい。もうすこしボートの出発がおそかったら、自分たちはもうこの世の者ではなかったんだ
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