リーフへのしあげちまった」
 水夫のフランソアがさけんだ。
「リーフへのしあげちまったって」伯爵がいまいましげに舌打ちをした。
「お前ら、海へはいってボートを、リーフから下ろしてくれ」
「とんでもないことでございますよ」
 と、水夫のラルサンが、かぶりをふった。
「そんなことをいわないで、はやく海へはいってボートをおしあげてくれ」
「あっしゃ、鱶《ふか》という魚がきらいでがんしてね。あいつはわしら人間が海へはいるのを一生けんめいねらっているんです。はいったところをぱくり。もものあたりから足をくいとられたり、お尻の肉をぱくりとかみ切っていったり。えへへ、なんでしたら閣下が鱶へ食糧をおあたえなすっては……」
 ラルサンは皮肉《ひにく》をとばす。
「鱶にくわれる方が、恐竜に食われるよりは、ましだというのかい」
 伯爵も負けずにやりかえした。恐竜といったが、それはラルサンたちの胸へ、ぎくりと大きくひびいた。
「恐竜がどうしたんで……」
「どうしたといって、わしらがボートで出たあと、海中からとつぜん恐竜が現われ、船は沈没してしまった」


   総督閣下《そうとくかっか》


 その翌日から、恐
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