の瀬戸《せと》ぎわだと思い、
「早く島へこぎつけるんだ。今シー・タイガ号は、怪物におそわれている。この間にすこしも早くボートを島へこぎつけろ。さもないと、われわれまで、怪物の餌食《えじき》になってしまうぞ」と、オールをにぎっている連中に急がせた。
 なお伯爵が、このように落着いていたのは、やはりこれまでの探検で、ふつうの人たちよりは胆《きも》がすわっていたせいであろう。彼は、「恐竜だ」ということばをわざとさけ「怪物が現われた」と、すこしおだやかなことばづかいをした。それは他の人々が、恐竜がと聞いたときに、そろって腰をぬかしてしまってはたいへんと、気がついたからだ。
 ボートは、島のたき火を目あてに、波をかきわけて矢のように走った。
 実業家マルタン氏が舵手《だしゅ》だったが、氏は非凡《ひぼん》なうでをあらわして、波をうまくのり切った。
 島はだんだん近くなったが、ぴかり、ぴかりと稲妻《いなずま》がきらめくたびに、一同は不安にかられ、神に祈り、誓いをたてた。
 がりがりッと大きな音がして、ボートは下から突上げられた。と、いくらオールで海面をひっかいても、もう進まなくなった。
「いけねえ。
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